糖尿病網膜症の症状
糖尿病網膜症の症状は、気づかないうちに進行していきます。
糖尿病網膜症を放置していると、目の内部では、三つの段階で症状が進行していきます。

糖尿病網膜症と自覚症状
糖尿病網膜症は、自覚症状にとぼしい眼病です。
そのため、気づいたときには、症状が末期にまで進行していた、ということになりがちです。実際、年間に約3,000人もの人が、糖尿病網膜症によって中途失明してしまうという現実があります。
糖尿病網膜症の自覚症状としては、視力の低下、視野の欠けといったもの。そのほか、目の前に黒いスミや雲のようなものが見える、ゴミのようなものが見える、などがあります。
しかし、こういった自覚症状がでてきたころは、糖尿病網膜症がそうとう進行したときです。
糖尿病網膜症の元の病気である糖尿病自体が、痛みも自覚症状もありません。そのため、検査をしないと、なかなか自分が糖尿病であるとはわからないものです。
検査をして糖尿病と診断されたときには、”すでに長年、糖尿病だった”ということもあります。そのとき、糖尿病網膜症がかなり進行していても、おかしくはないのです。
半数が未治療
「糖尿病が強く疑われる人」は、いまや、日本で1,000万人にもなろうというほどです。このうちの半数は治療を受けています。
しかし、残りの半数の人は、治療を受けていないというのが現状です。
定期検査をうけていないために、自分が糖尿病であると気づいていないのです。あるいは、医師から糖尿病と告げられていても、痛みも不自由もないために、糖尿病を軽く考えているわけです。
日本で、約500万人もの人たちの目は、自覚症状もなく、今も、確実に糖尿病網膜症が進行している、といえるのです。
糖尿病網膜症の三つの症状
糖尿病網膜症は、進行段階によって、三つの症状に分けられます。
「単純網膜症」、「増殖前網膜症」、「増殖網膜症」の三つです。
とくに、明確な区切りがあるわけではありません。
しかし、三つの症状は、まったく異なった様相をみせます。そのため、治療法もそれぞれで異なっています。
以下に説明する糖尿病網膜症の三段階の症状は、本人の気づかない間に、眼球内でおきている症状ということになります。
眼底検査によって発見が可能です。
単純網膜症
単純網膜症は、糖尿病網膜症における最初の段階です。
まったく自覚症状がなく、視力低下も日常の不自由さもありません。
しかし、眼球内では、眼底の網膜に、確実に糖尿病の影響が出始めます。
糖尿病にかかると、全身の血管や神経がおかされていきます。
網膜には毛細血管が張りめぐらされています。こういった細い血管は、まっさきに高血糖の影響をうけてしまいます。
高血糖は粘着性の高い、どろどろした血液であるため、血流が悪くなります。

さらに高血糖は、毛細血管の壁をもろく、細くしてしまいます。
そのため、血圧に負けてしまい、血管が部分的にふくれたりします(毛細血管瘤)。
また、血管のところどころが破れ、点状の出血や、シミ(硬性白斑)があらわれます。
血糖コントロールによって改善
単純網膜症の段階では、眼科的治療を行なわずとも、内科的な血糖コントロールのみによって、改善していくことができます。完治することもあります。
糖尿病網膜症は、進行していくほどに治りづらくなるため、この段階での発見と治療がたいせつになります。
増殖前網膜症
増殖前網膜症は、単純網膜症を放置した場合、次に現れてくる症状です。
増殖前網膜症では、さらに網膜の血流がわるくなり、網膜への酸素不足、栄養不足があらわれてきます。
網膜の血管は、さらに障害されて弱くなり、出血とシミ(軟性白斑)がいっそう増えてきます。この段階でも自覚症状はないものです。
前増殖網膜症の段階では、内科的な血糖コントロールだけでなく、眼科的な治療が必要になってきます。
レーザー光線を当てる「レーザー光凝固療法」によって治療を行ないます。
光凝固療法によって、もろくて出血しやすい「新生血管」ができないようにできます。つぎの段階である「増殖網膜症」という最悪の事態にならないように、歯止めをかけることができるのです。
増殖網膜症
増殖網膜症は、糖尿病網膜症における最終段階です。
糖尿病網膜症は、網膜の中心にある黄斑部(おうはんぶ)が障害されないかぎり、この段階になっても、自覚症状があらわれないこともあります。
増殖網膜症になると、さらに血流がわるくなり、酸欠状態が進んでいきます。網膜は極度の酸素不足、栄養不足におちいってしまうのです。
そこで、血行不良をカバーしようとして、「新生血管」が作られ始めます。
この血管をとおして、網膜に酸素や栄養を送ろうとするわけです。
新生血管がつくられると、一見、血行がよくなるように思えます。
しかし、新生血管は非常にやぶれやすいため、すぐに出血してしまいます。
新生血管は増殖力がすさまじく、硝子体(しょうしたい)のほうにまで伸びていき、そこで出血をくりかえします。
硝子体で出血をおこすと、目の前にスミが流れるように見えることがあります。しかし、しばらくすると出血が吸収されるため、安心するようです。
こういったことが何度がくりかえされます。
その間も、目の中では、酸欠と新生血管の増殖が進んでいきます。
増殖網膜症の最終段階
増殖網膜症の最終段階では、新生血管が異常な増殖膜をつくります。
それが網膜を引っ張り、網膜剥離をおこします(牽引性網膜はく離)。
さらに、新生血管が、眼球の前方にある毛様体や虹彩にまで伸び、そこでも増殖膜をつくっていきます。
これが隅角をふさぐことによって、眼圧が上昇し、「血管新生緑内障」を引き起こします。

この段階まで症状が進行すると、硝子体手術を行なうことになります。
血管新生緑内障の場合は、レーザー治療を行ないます。
しかし、手術のかいなく、失明してしまう人がいるのが現状です。
それも、糖尿病網膜症が自覚症状にとぼしいためといえます。
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