角膜移植の手術
角膜移植の手術は、大きく2種類に分けられます。
- 全層角膜移植術 ・・・ 5層をすべて入れ替える
- 深層表層角膜移植術 ・・・ 表面の3層のみを入れ替える

提供される眼球は、ドナーの死後、たいてい10時間以内に摘出されます。
眼球の摘出後、2日以内に、角膜移植の手術が行なわれます。
全層角膜移植術
全層角膜移植術とは、5層構造になっている角膜のすべてを、新しい角膜と交換する手術法です。

全層角膜移植術は、角膜内皮障害のため、「水泡性角膜症」になっている場合に行なわれます。
角膜実質層の深い部分まで、損傷が進んでいる場合にも行なわれます。
角膜内皮細胞は、眼球内の水分を、必要以上に角膜に入れないように、水分量を調節しています。ところが、角膜内皮細胞の数が少なくなりすぎると、細胞どうしの間隔があいてしまい、水分が大量に浸入してきます。
すると、角膜の上皮層、実質層がむくんで、白くにごってしまいます。
これが「水泡性角膜症」です。
この場合、角膜内皮細胞をふくめた角膜全層を、すべて交換する必要があります。
全層角膜移植術によって、角膜をすべて交換すると、拒絶反応がおこりやすくなります。長期的には、だんだん内皮細胞が減少していく傾向があります。そのため、「全層角膜移植術」を行なうと、ふたたび角膜移植が必要になることが多くなります。
深層表層角膜移植術
深層表層角膜移植術とは、5層構造の角膜のうち、底の「デスメ膜」と「角膜内皮細胞」をのこす手術法です。

深層表層角膜移植術では、外側の3層のみを、新しい角膜と交換します。
内側の2層をのこす必要があるため、手術の難易度が高くなります。
そのぶん、手術時間もかかります。
「水泡性角膜症」以外は、できるだけ、この方法で手術を行ないます。
角膜がとがる「円錐角膜」の場合にも、適用することが可能です。
深層表層角膜移植術では、角膜内皮細胞をのこすために、拒絶反応が少ないという特徴があります。角膜内皮細胞は自分のものであるため、さほど減る心配はなく、長期にわたって安定するというメリットがあります。
角膜内皮細胞が死滅する「水泡性角膜症」でなければ、たいていは、この手術法を選択します。
そのほかの角膜移植手術
- 幹細胞移植(輪部移植)
- 角膜上皮細胞を再生するための「幹細胞」を移植する手術。
自分の反対の目から移植することも可能。 - 治療的角膜移植
- 病変部だけを切り取り、部分的に角膜を移植する手術。
- 整形的角膜移植
- 角膜の穴をふさいで、形をととのえる手術。
- 美容的角膜移植
- 視力回復は望めないことを前提に、外観だけをととのえる手術。
角膜移植手術の実際
角膜移植手術のさいには、全身麻酔、あるいは局部麻酔を行ないます。
手術中に痛みはありません。提供される角膜は、HIVや白血病など、病気の有無や感染などが、しっかりとチェックされます。
全層移植の場合は、「トレパン」とよばれる器具で、角膜の全層を円形に打ち抜きます。深層表層移植の場合は、メスで円形に切り抜きます。
厚さ0.5ミリ程度の角膜を扱う手術なので、顕微鏡を使用して、手術が行なわれます。医師の腕がたいせつになります。
角膜は、”髪の毛よりも細い糸”で、ぬい合わされます。
「抜糸」は基本的には行ないません。ただし、手術後に糸がゆるんできたり、切れたり、乱視が強くなってきたときは、調整したり、抜糸を行ないます。
手術時間は1時間ほど。入院期間は、1〜2週間です。
はやい人は、1ヶ月ほどで視力が回復してきます。角膜のむくみが完全にとれるまでに、2〜3ヶ月はかかります。
退院後は、定期的に通院する必要があります。
角膜移植を行なうと、角膜の強度が低下します。
とくに手術直後は、注意する必要があります。角膜がくっついて安定したあとでも、「正常時の半分程度の強度」になります。
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